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心はいつも雨模様

徒然なるままに書いていきます。

妄想手紙 ~ 伏見稲荷大社での出来事 6通目 (友人) ~

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  マルイネコ様

拝啓 6月の半ば、梅雨の時季に入り、今週も雨の日の通勤が多かったよ。僕は長続きする雨があまり好きじゃない。だって、洗濯物はなかなか乾かないし、食べ物も放っておいたらすぐにカビが生えてしまうからね。先日は食パンからキノコが生えていた。これはもうマンガの世界だ。でも、だからと言って雨が嫌いなわけじゃない。僕は上野恩賜公園を散歩するのが好きで、雨の日でも張り切って散歩に出かけている。木々の葉に落ちる雨音。石畳に弾かれる雨滴。池に作り出される丸い模様。雨が作り出す不思議な世界観が、もやもやとした気持ちを一気に晴らしてくれるんだ。工夫次第で、雨の素晴らしさなんてものは、たくさん見つけることができる。

みんなで旅行して、あれから半月が経ったけど、まだ楽しかった旅行の余韻が残ってて、興奮がおさまらない。こんなに楽しいものなら、もっともっとみんなで旅行できたらいいのになって、つくづく思うよ。でも、学生の頃のように時間が有り余っている訳ではないから、そう簡単には行かないんだろうけどね。今回の旅行は、童心に帰れたので、本当に楽しかった。旅行でたくさん話したから、しばらく話すことはないだろうと思っていたけど、こうして手紙を書いていると、フツフツと書きたいことが浮かんでくるから不思議だ。

まず、集合前の早めの京都旅行に付き合ってくれてありがとう。まさか来てくれるとは思わなかったよ。さすがは心の友。なんてね。ただの寂しがり屋なだけだろうけど(笑)メールでは「夢の中にいるから、君とは付き合ってられない」と返信があったけど、旅行前日に「9時過ぎくらいなら京都駅に到着できる」と再度返信があった時は、素直に嬉しかった。正直、早く来すぎて退屈になるだろうと思ってたから、結構困ってたんだ。それでも、京都駅にフラリと登場したマルイネコの眠そうな姿を見たときは、申し訳ないと思ったけどね(笑)

いろんな思い出を手紙で振り返っていくのは面白いのだろうけど、なるべく控えめにして、今回は伏見稲荷大社の出来事を中心に書いていこうと思う。これは君も気になっていることだと思うから。

結局みんなが来るまでの間、僕たちは伏見稲荷大社を巡ることにした。「京都駅から電車で数分の場所にあるから、行こうぜ!」と、マルイネコが提案したから、僕はそれに従った。京都のことはあまり詳しくなかったから、とりあえずは賛成したけど、今思えば、やめておけばよかったと後悔してる…マルイネコは、その神社に何か思い入れとかあったのかい?あの出来事は、すべて君の発した言葉から始まっているような気もするんだけど…。

伏見稲荷大社は思ったよりもハードだった。空いた時間に公園を散歩している僕でも、足腰にかなりきた。ずーっと登り坂が続いているんだから、まるで登山だよ。赤い鳥居が幾重にも連なっていて、歩いている最中は神様の世界をさまよい歩いているような、そんな感覚だった。最初のうちは不思議な景色に新鮮さと驚きを感じていたんだけど、歩いても歩いても、ずーっと同じ景色なので、しばらくすると飽きてしまった。鳥居を見ていると目が回ってしまうくらいに、錯覚に溺れていった。途中、コースを外れて、外側から鳥居の道を眺めてみたけど、赤い鳥居のトンネルはどこまでも続いていて、まるで、どこかの世界に通じているんじゃないかと、その時思わずにはいられなかった。

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お互いヒーヒー言いながら歩き続け、ようやく多くの観光客が集まる広場に辿りついた。僕はそこが頂上なのかと思っていたけど、まだ山の中腹であることが分かり、その時ばかりは達成感が一気に絶望へと変わった。僕自身、体力的なことを考えて、ここでもう引き返すとばかり思っていたけど、マルイネコは「俺たちはこんな中途半端な場所で終わるような人間じゃないだろう?行くぞヤマジュン!」とけしかけ、ゴールの見えない道を指さし、再び歩みを進めていった。僕はため息を吐きながらも仕方なしにマルイネコの後を追った。今思えば、そこでマルイネコを止めておけば良かったと思ってる。結局、僕たちは2時間以上も先の見えない赤い鳥居の道を歩き続ける羽目になってしまったんだから。

中間地点を過ぎてからも、僕たちは頂上を目指し、ただひたすらに歩き続けた。時折、ボロボロの鳥居が現れたり、長年の雨風で使いものにならなくなった鳥居が、山積みとなった姿で現れるたびに、僕らは身震いした。どんなものにも最期がある、と、歴史が僕たちを賢明に訴えているようで、見ているだけで息苦しかった。このように、普段は目にすることのできない景色に、気を取られてばかりいたから、僕たちは周りの微妙な変化に気づけずにいたんだ。

そう、いつの間にか、僕たち以外に人はいなくなっていた。先程まではポツポツと観光客が視界に見え隠れしていたのに、気は付けばパッタリと視界から消えていた。さらに、音という音が一切聴こえなくなっていた。人の話し声はもちろん、木々の葉が揺れる音、鳥のさえずりさえも、聞こえてこない状況だった。

静寂に包まれた世界。僕たちの荒い息づかいだけが空中を漂う。重くなった足を必死に動かしながら、僕は考えていた。この鳥居の先にゴールなんてあるのか。一生このまま鳥居の中を歩き続けるのではないか。別の世界へ通じていることは、あながち間違えではなかったのではないか、と。「引き返そうよ」と何度も口から出かかったけど、引き返すにはもう手遅れなほど歩いたので、今更歩いたことを無駄にはしたくないという気持ちが強くあった。だから、ゴールがあることだけを信じて、先へ進んだ。

楽しい旅行のはずなのに、なぜ僕は必死になって登山をしているのか。そのように考え、ついに心が折れそうになった時に、ようやく、鳥居のトンネルが途切れ、視界が開けた。ずっと下を向いて歩いていたので、目前に広場が迫っていることに気づけなかった。

やっとこさ辿り着いたその広場は、先程の中間地点と比べて妙に薄暗い場所だった。左側にゴツゴツとした石がたくさん並んでいて、そして、右側には観光客用のお土産が売っているお店があった。広場の先を見てみると、鳥居はまだまだ山の奥へと続いていたので、ここが頂上ではないこともすぐに分かった。しかしながら一旦は鳥居地獄から逃れることが出来た僕たちは、ひとまずホッと胸を撫で下ろした。
「ここで休憩しよう」とマルイネコは力なく言った。
さっきはあんなに好奇心をむき出しにして「頂上を目指そうと」と言っていたのに、この時ばかりはさすがに君も嫌気が指しているのが分かった。
ゴツゴツとした岩は、よく見てみると苔蒸した古い墓地だった。正直、気味が悪かった。でも、休憩しないと先に進めないくらいに体力がなくなっていたので、お墓の段差をお借りして、そこで休むことにした。墓地の向かい側にあるお店で、飲み物を買うことにした。店員を呼んだけれど、返事がない。ボンヤリと明かりはついているだけで、人の気配がまったくない。それがいっそう不気味さを際立たせていた。ガラスケースにラムネが入っていたので、とりあえず、お金だけを置いて、ラムネを飲んだ。

しばらく休憩してから、マルイネコが「この先、どれくらい続いているのか確かめてみるよ。すぐに戻ってくるから待ってて」と言い、僕を置いて先へと進んでいった。こんな不気味な場所に一人置いていくなんて、やはり君は悪意に満ち満ちている。

僕は一人取り残され、薄暗い墓地で待つことになった。でも、いくら待ってもマルイネコは帰ってこない。心配になり、スマホで連絡を取ろうと思ったけど、圏外だったので何もできなかった。湿った空気が肌を撫でる度に、それが墓地に埋葬されている幽霊が、僕に触れているのだとつい考えてしまい、余計にその場所が怖くなった。嫌な予感ばかりするので、僕は逃げるようにその場から離れた。そして、君を待たず、先を歩くことにした。このまま歩いていけば、いずれはマルイネコとばったりと出くわすだろうと思ったので、問題ないと思った。

しかしその後も、歩いても歩いても君はいっこうに姿を現さない。「おーい。マルイネコー」と大声で呼んでも、僕の声がこだまするだけで、君からの反応は一切ない。立ち止まり、後ろを振り返ると、先程の広場は跡形もなく消えていた。ずっと、鳥居のトンネルが続いているだけだった。「まじか…」と呟くと、近くの鳥居がギシギシと音を立てて、僕を驚かせた。その音はとても不自然だった。まるで誰かが悪戯をしているかのようだった。僕は怖くなってその場に座り込んでしまった。本当にここは、現実の世界なのか。そう何度も疑った。もう一度スマホを確認するが、依然として圏外のまま。歩いても歩いても、君は一向に姿を現さないし、それに、ゴール地点も見えてこない。僕は疲れて果ててしまい、もう立ち上がる気力さえなかった。

どうしようか、と途方に暮れていると、道の先から乾いた風が吹いた。久しぶりの風だったので、僕は無意識にその風の吹いた方角を見た。すると、紺色の服を着た少女が立っていた。肌は陶器のように白くて、死んだ人間のような血色をしていた。この時点でもう恐ろしくて仕方なかったのだけど、このままだと、どうすることもできないので、僕は勇気を振り絞って、少女に尋ねた。
「ねえ、出口を知ってるかい」
望み通りの答えは期待していなかったけど、少女はゆっくりとうなずいた。
「ああ!ありがとう!助かったよ!ここら辺に住んでる子かい?」
嬉しさのあまり涙が出そうだった。しかし少女からの返答はなかった。一言も発さず、無表情のまま僕に背を向け、先を歩いていった。それは、黙って付いてこい、という意味だったのだろう。

僕は少女に誘導されるまま歩いた。早足で少女に近づこうとしたけど、まったく近づくことができなかった。一定の距離を保つことが、僕と少女に決められたルールであるかのように。ただ、僕を出口へと案内するだけだった。しばらく歩くと、人の声が聞こえてきた。目を凝らすと、ぼんやりと観光客の行列が見えた。少女は立ち止まり、人がいる方向へと指さし、行け、と、促した。少女のことは気になったけど、戻れることの方が重要だったので、僕は無我夢中で人がいる方へと駆けていった。途中、お礼を言ってなかったことに気づき、少女のいる方を振り返った。しかし、そこに人らしき姿はなかった。というよりも、先ほど歩いてきた道は、跡形もなく消えていて、ただ、深い森がそこにあるだけだった。

人々が行き交う道へ出ると、驚くことに、そこはゴールではなく、マルイネコが「こんなところで終わるような人間じゃない」と言い張った、中間地点の手前だった。少女に付いて歩いているときは、常に登り坂だったのに、僕はいつの間にか下山していた。あまりの非現実的な出来事に、僕は恐ろしくなった。もうなにも考えたくなかった。たぶん僕は、夢でもみていたのかもしれない。そう自分に言い聞かせた。結局、登頂は諦めて、中間地点でマルイネコが戻ってくるのを待つことにした。しかし、後ろから僕の肩をポンと叩く者がいた。僕は「ギャ!」と短く悲鳴を上げ、後ろを振り返った。すると、マルイネコがそこにいた。
「どうしてここにいるんだ」と僕は恐る恐る尋ねた。でも君は「さあね」と答えるだけだった。それ以降お互い会話は交わさなかった。君は手に古ぼけた本を持っていた。でも、それ以上聞くことはしなかった。

それが、僕目線での伏見稲荷大社での出来事だよ。

今更聞くけど、マルイネコも僕と同じような状況に遭遇していたのかい?それとも自力で登頂し、中間地点に戻ってきたのかい?しかし、マルイネコのその口ぶりは何か知っている風でもあった。小学生からの付き合いだ。君が嘘をついていることくらい、僕にはすぐに分かった。君も、あの少女に誘導されて、中間地点に戻ったんだろう?それと、手に持っていた本は、何か関係があるのかい?ああ、今想像しただけでも背筋に寒気が走る。

中間地点でスマホを確認すると、アンテナがしっかりと三本立っていた。時間を確認してみると、約束の時間、12時をすでにオーバーしていた。春子からの怒りの電話が、何通も非通知で入っているのが分かり、僕たちの顔は一気に青ざめた。第二の恐怖が、これから待っていた。何とか謝罪の言葉を探しながら、京都駅の待ち合わせ場所へと向かっていった。

あの現象は夢だったのか。それと、あの少女は何者だったのか。今でも分からない。それが、今回の旅行での唯一の心残りだよ。

待ち合わせ場所に行き、春子に状況説明しても「言い訳すんな!」と怒られるだけだし、あの時だけは本当に参ったよ(泣)

長々とごめん。旅行は最初から最後まで楽しかった。特に、ホテルでワイワイできたことが一番の思い出かな。お酒を持ち寄って、昔のことを話す時間は本当に幸せなひとときだった。それに、春子の悪酔いは、面白かった(苦笑)自分で言っておいて恥ずかしいけど、こんな風にずっと一緒にいて飽きないのは、本当にすばらしい関係性だと思うんだ。こういう風にいつまでも気軽に接していける仲って、なかなかないんじゃないかなあ。

僕はちっぽけな男だけど、みんなで紡いできた些細な思い出を、大切にできる人間になっていきたい。そんなことを、この手紙を書きながら思ったりしてる。だから、君が前回手紙で指摘していた通り、あの恥ずかしい思い出も、しっかりと責任を持っていこうと思う。

それじゃあこの辺で。次いつ会えるか分からないけれど、その時まで、元気に。体調には気をつけて。

梅雨が明けたら、本格的な夏がやってくるね。
毎年のことなのに、夏が愛おしくて仕方がない。
               敬具
2017年6月20日

  ヤマジュン

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