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心はいつも雨模様

徒然なるままに書いていきます。

桜が運んできたもの

多くの車が行き交う大通りを外れ、人気の少ない道を歩いていました。
空は雨雲に覆われていて、今にも滝のような雨が落ちてきそうな空模様でした。そんな湿っぽい心持と空間を泳いでいる中で、突然、私を誘惑するかのように、一枚の桜の花びらが鼻先を掠めていきました。風に乗ってここまで運ばれてきたのでしょう。
「そういえば、今年はまだ桜を見ていないな」と、ふと桜のことを思いました。
思い返してみると、どんなに忙しくても、何だかんだで桜を目にしてきました。
学校に入学したとき。
新学期が始まったとき。
部活が新たに始動したとき。
学校を卒業したとき。
初めて実家を離れたとき。
アルバイトをしながら人生に思い悩んでいたとき。
就職の為、知らない土地に行く途中に電車から一瞬だけ見えたとき。
そう。記憶の片隅にはいつも桜がありました。
私の鼻先を掠めるくらいの小さな桜の欠片でも、見るだけで胸に込み上げてくるものがあります。人生の節目には必ず桜が咲いたので、大切な記憶に寄り添うようにして再生されるから、そう感じるのでしょう。

気がつけば私は桜の花びらが飛んできた方向へと歩みを進めていました。
しばらく歩き、角を曲がると、歩道の上を覆い被さるように淡いピンク色を纏った桜の木が現れました。満開の時期を少し経過していたので、ぽつぽつと青葉が目立ちました。

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その後、少し歩くとたくさんの桜に覆われた公園が現れました。
私は吸い込まれるようにその公園内に足を踏み入れました。私一人しかいないと思っていましたが、耳を澄ましてみると色んな声が聞こえてきます。
老夫婦が楽しそうに桜のことを話している声。
家族連れが子供と楽しそうに遊んでいる声。
若者が花見をしながら近況を話している声。
私はその声を耳にしながら、桜を眺めていました。何年経っても桜は桜で、いつまでも変わらない美しさに不思議と安心感を感じました。
今年も、頑張ってみようか。そんな前向きな気持ちがポツポツと芽生えました。

もう少し休憩してから公園を後にしよう、そう思ったとき、一瞬だけ強い風が吹きました。この日は、にわか雨が予報されていて、天候は常に不安定でした。このような突拍子のない風も、この日に限っては特別なものではありません。空には依然として重そうな黒い雨雲が浮かんでいます。

先程の強い風により、最後まで必死に枝葉にしがみついていた桜の花びらが舞い、そして雪のように地面に積もっていた桜の花びらが躍るように舞い、辺りは白に近いピンク色の世界に包まれていきました。
私は目を瞑りました。そして風が止んだのを肌で確認してから、目を開きました。その時、私は自分の目を疑いました。あれは幻だったのでしょうか。白い世界に紛れるように、昔の自分が目の前にいるのです。幼き頃の小さな自分はこちらを見て、あどけない表情でありながらも優しさを含んだ笑顔で私に微笑みかけてきました。
「なぜ、そこにいるんだい」と私は尋ねました。
しかし私の声は届くことなく、すぐにさきほどの家族連れの少年に姿が変わってしまいました。
少年は目に砂が入ったのか、地面に屈んで目をこすっています。両親は心配そうに我が子のもとに駆け寄っていきます。
今までのは、きっと、私の思い違いでしょう。
でも、もしかしたら、桜の花びらが、過去の自分を現在に運んできたのかもしれません。
桜の変わらない美しさは、桜自身が過去を記憶しているのもありますから。
今年もまた、桜が私に元気を与えてくれました。