心はいつも雨模様

記憶より記録

Webライター戦記 ~悪夢~

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自分の書いた文章がお金に代わるなんて、とっても素敵なことですよね。まるで作家のように想像力を働かせてお金を稼ぐのですから、たとえ辛くてもやりがいがあるからとても楽しいです。自分の思いが誰かに届くことを考えると、嬉しさが胸の底からふつふつと込み上げてきます。

これから先いろんな案件に挑戦し、相手の心を揺さぶるような記事をたくさん書いて、少しでも世の中に貢献していきたいです。していきたいです。いきたいです。いきたい…。いき…。

「よかろう。それならここに書いて欲しい案件が腐るほどあるから、頼んだよ」
「任せてくださいな。私でよければ何でもお引き受けいたしますよ」
「じゃあはい」ドサドサ。←大量の案件が目の前にうず高く積まれる音。

”介護業界について1000字以上で述べてください。です、ます調でお願いします。報酬は100円です。悲観的な部分が入っていると却下です。指定の介護施設について紹介してください。1000字で報酬は100円です。指定事項に反する記事は却下です。悲観的な内容は極力避けてください。不動産投資について詳しく述べてください。専門家目線で書いてください。できるだけ不動産投資をやりたくなるような内容を書いてください。1000字で150円です。脱毛のメリットについて、脱毛の種類について、脱毛の経験談について、脱毛をした方が良いと思いたくなるような記事を書いてください。1000字で報酬は100円です。稚拙な文章や信ぴょう性に欠ける内容はすべて却下です。指定の保育園について書いてください。IT業界について転職活動に有益な情報を述べてください。すべてすべてすべて1000字以上で100円です。”

「あのう…」
「なに?なにか文句でもあるの。仕事をもらえるだけ感謝しろよ」
「しかし、これはいくらなんでも報酬が安い気が…」
「うるせえ」バサバサ。←大量の案件を投げつけられる音。
「書くと言ったからには書けよ。やらないなんてそれは無責任だ」
「嫌だ嫌だ嫌だ書きたくない」
私は逃げる。でも逃げても逃げてもあいつからは逃げられない。
私はすぐに捕まる。そして大量の案件を体中に乗せられる。
ぐええ…苦しい…助けて…助けて…
    ・
    ・
    ・
私は目を覚ます。悪夢にうなされていたようで、額から変な汗が流れている。上からの異様な重みが苦しい。

どうやら自宅にある2メートルほどの巨大万年筆が何かの拍子に倒れ、私の首もとをじわじわと圧迫していたらしい。これはへっぽこライターグランプリで見事優勝し、記念品としてもらったものだ。サンドバッグ仕様になっていて、嫌なことがあったらこれに向かって殴ったり蹴ったり、ストレス発散できるように作られている。まるでライターの仕事が鼻から不毛であると言わんばかりに。

重さは実に約30キロある。おそらくその重みが原因でこのような嫌な夢を見たのだろう。いやしかし驚いた。まさか夢にも心を食い潰す悪魔のような案件が出てくるとは。

理想と現実の乖離は実に残酷なもので、私の書いた文章は皮肉なことにゴミのように扱われ、そして、消えてなくなる。虚しさを心に秘めるのもライターとしての運命なのかもしれない。

窓の外を見る。インクのような黒い雨が降っている。気味が悪い。

私は万年筆型の煙草を口にくわえ、そっと火をつける。

まっさらな原稿用紙を思わせるかのような白い煙が、天井にゆらゆらと昇っていく。

それでも私は書いていく。

目の前に案件がある限り。